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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)2761号 判決 1988年6月01日

本籍

東京都北区西ケ原四丁目六五番地

住居

同都豊島区東池袋二丁目一番七号

OS共同ビル四〇三号

会社員兼遊技機リース業

小林誠司

昭和一二年九月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都豊島区北大塚二丁目一六番五号ほか四か所に遊技機(テレビゲーム機)を設置し、同遊技機を使用して不特定多数の者を相手方として継続的に賭博収入を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、その収入を除外して仮名あるいは他人名義で定期預金を設定するなどの方法で所得を秘匿したうえ

第一  昭和五八年分の実際総所得金額が一億一一六四万五五一七円あった(別紙一の(1)修正貸借対照表、同一の(2)修正損益計算書、同一の(3)所得金額総括表参照)のにかかわらず、所得税の納期限である昭和五九年三月一五日までに、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、昭和五八年分の所得税額六八六四万九〇〇円(同一の(4)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五九年分の実際総所得金額が一億一六二四万三九九七円あった(別紙二の(1)修正貸借対照表、同二の(2)修正損益計算書、同二の(3)所得金額総括表参照)のにかかわらず、昭和六〇年三月八日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、昭和五九年分の総所得金額が四七〇万円でこれに対する所得税額が四五万八八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六三年押第七五号符号二)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六八五〇万五一〇〇円と右申告税額との差額六八〇四万六三〇〇円(同二の(4)脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一三通

一  小林正子(九通)、國井昌、太田義彦、後藤和繁、西田治樹、小林喜八郎、小林修二、若山髙秀、斎藤光子、深沢美由紀、瀬川和男、瀬川実、渡辺芳博、坂本敦、小林良八郎の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官大竹利忠作成の左記の捜査報告書

(1)  現金についてと題するもの

(2)  土地建物についてと題するもの

(3)  貸付金についてと題するもの

(4)  業務主勘定についてと題するもの

(5)  事業所得についてと題するもの

一  収税官吏作成の左記の調査書

(1)  郵便貯金調査書

(2)  預金調査書

(3)  債券調査書

(4)  無尽調査書

(5)  預け金調査書

(6)  車輌調査書

(7)  住宅ローン調査書

(8)  借入金調査書

(9)  支払手形調査書

(10)  未払金調査書

(11)  利子収入調査書

(12)  譲渡収入調査書

(13)  譲渡経費調査書

(14)  源泉徴収税額調査書

(15)  所得控除調査書

一  検察事務官井出光男作成の捜査報告書

判示第一の事実につき

一  押収してある五八年分の所得税の確定申告書「小林誠司」一袋(昭和六三年押第七五号の一)

判示第二の事実につき

一  押収してある五九年分の所得税の確定申告書「小林誠司」一袋(同押号の二)、同割賦償還金等の額の計算明細書一袋(同押号の三)、同昭和五九年分収支内訳書一袋(同押号の四)

(累犯前科)

被告人は

一  (1)昭和五三年九月二八日東京地方裁判所八王子支部で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年六月(五年間執行猶予、昭和五四年八月一七日右猶予取消決定)に処せられ、(2)昭和五四年七月九日東京地方裁判所で競馬法違反の罪により懲役八月に処せられ、昭和五五年二月一四日右(2)の刑の、昭和五六年八月一四日右(1)の各刑の執行を受け終わり、

二  その後犯した賭博開帳図利の罪により、昭和五七年七月一三日東京地方裁判所で懲役八月に処せられ、昭和五八年二月二〇日右刑の執行を受け終わった

もので、右の事実は検察事務官作成の前科調書及び判決書謄本二通並びに調書判決書謄本一通によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により罰金につき同条二項を適用したうえ懲役刑と罰金刑とを併科することとし、判示第一の罪は前記一の(1)、同二の各前科との関係及び同一の(2)、同二の各前科との関係で、判示第二の罪は前記一の(1)、同二の前科との関係でそれぞれ三犯であるから、いずれも刑法五九条、五六条一項、五七条により判示各罪の懲役刑にそれぞれ累犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金三〇〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、遊技機(テレビゲーム機)を設置して不特定多数の客を相手方とし、これを利用して多額の賭博収入を得ていた被告人が、その収入を除外して仮名あるいは他人名義で定期預金を設定するなどの方法で所得を秘匿したうえ、昭和五八年分については所得税確定申告書を提出せず、昭和五九年分については虚偽過少の所得税確定申告書を提出して、右二年間で合計一億三六〇〇万円余の所得税を免れた事案であって、所得の性質・内容自体芳しくなく、脱税金額が多額で、税ほ脱率も昭和五八年分については一〇〇パーセント、同五九年分も九九パーセント以上と高率であるのみならず、その犯行の動機も、労せずして多額の金銭を獲得し被告人や家族の経済的安定をはかろうとの意図によるもので酌むべきところはなく、所得秘匿の手段・方法も大胆かつ巧妙である。たしかに、所得秘匿工作はゲーム機賭博の発覚を免れるためとの側面に主眼を置いたものであることは認められるが、そのことが直ちに納税義務の存在を意識して右秘匿工作がなされたことを否定するものでないことは勿論、有利な情状の一つとなるものでもない。そして、この種事犯の罪質、被告人の前記累犯加重の原由となるべき前科や犯歴、行状を併せ考えると犯情は悪質であり、被告人の刑責は重いと言わなければならない。

被告人は、自己の非を認め、本件ほ脱にかかる本税は完納し、重加算税約四六〇〇万円のうち一〇六八万円余、延滞税約二九〇〇万円のうち五〇〇万円余を納付していること、附帯税未納付分についても納付方に努力する旨誓い、離婚した妻も同女の提供した保釈保証金が還付されたときはそれを被告人が納税資金等に充てることに同意する旨述べていること、被告人が現在正業にも就いたことなど弁護人指摘の被告人にとって有利な又は同情すべき事情も認められる。

しかしながら、前記本件の重大性にかんがみると、本件は、被告人の刑の執行を猶予すべき事案とは認められず、右被告人のために酌むべき諸事情は、刑期及び罰金額を算定するうえで斟酌するのが相当であると思料され、叙上の諸情状を総合勘案して主文掲記の刑を量定した次第である。

(求刑 懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

検察官井上經敏、同伊藤恒幸、弁護人野崎研二各出席

(裁判官 中野久利)

別紙一の(1)

修正貸借対照表

昭和51年12月31日現在

小林誠司

<省略>

別紙一の(2)

修正損益計算書

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

小林誠司

<省略>

別紙一の(3)

所得金額総括表

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

小林誠司

<省略>

別紙一の(4)

脱税額計算書

昭和58年分 小林誠司

<省略>

別紙二の(1)

修正貸借対照表

昭和59年12月31日現在

小林誠司

<省略>

別紙二の(2)

修正損益計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

小林誠司

<省略>

別紙二の(3)

所得金額総括表

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

小林誠司

<省略>

別紙二の(4)

脱税額計算書

昭和59年分 小林誠司

<省略>

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